ウェブアクセシビリティとは、障がいの有無や年齢、利用環境の違いに左右されずに、誰もが等しくWebサイトやアプリケーションを利用しやすい状態のことです。
自社のウェブアクセシビリティと言っても対応はなかなか難しいですよね?
そもそも、ウェブアクセシビリティとはなんぞや?っていう方も少ないないと感じます。
今回は、全編、後編の2回に分けて、ウェブアクセシビリティとその対応方法について解説したいと思います。
もし、ウェブアクセシビリティ対応でお困りの方は、ぜひアイエムワークスまでご相談ください。
目次
ウェブアクセシビリティとは?
ウェブアクセシビリティとは、障がいの有無や年齢、利用環境の違いなどに左右されずに、誰もが等しくWebサイトやWebサービス、Webアプリケーションを利用しやすい状態のことを指します。
WWW(World Wide Web)を発明したティム・バーナーズ=リー(Timothy “Tim” John Berners-Lee)氏は、イギリスの計算機科学者であり、URLやHTTP、HTMLといったWebの基礎技術を設計した人物です。彼は、障がい者を含むすべての人が等しくWebを利用できることが、Webの本質であると述べており、これが現在のウェブアクセシビリティの基盤となっています。
また、Web技術の標準化を進めるために、W3C(World Wide Web Consortium)も設立しました。
Webサイトやサービスを提供する上で、アクセシビリティ対応は欠かせない要素といえるでしょう。
彼の言葉に、次のようなものがあります。
そもそも「アクセシビリティ」とは
アクセシビリティ」とは、情報やサービス、製品などに誰もがアクセスしやすくすることを指します。
特にWebの分野においては、障がいの有無や年齢、使用するデバイスの違いにかかわらず、すべての人が等しくWebサイトやアプリケーションを使いやすくすることを目指します。
アクセシビリティには以下のような考え方
・視覚的アクセシビリティ
視覚障がいのある人のために、音声読み上げや高コントラストのデザインで配慮する。
・聴覚的アクセシビリティ
聴覚障がいがある人でも内容が理解できるように、動画に字幕をつけたり、音声を文字で代替する。
・操作性の確保
マウスやタッチスクリーンを使わずにキーボード操作だけで利用できるようにするなど、デバイスに依存しない操作性を重視する。
・認知的アクセシビリティ
読みやすく理解しやすい言葉やデザインを用いることで、認知障がいや学習障がいがある人にも分かりやすいように工夫する。
Webサイトやアプリケーションがアクセシビリティに配慮していると、すべての人が等しく情報や機能にアクセスできるようになるため、ユーザーエクスペリエンスが向上し、社会的な公平性の確保にもつながります。
内閣府のウェブアクセシビリティ方針
例として、内閣府のWebサイトでは、ウェブアクセシビリティ方針として、誰もが利用しやすいWebサイトを目指し、以下のような取り組みを掲げています。これにより、高齢者や障がいのある方を含む、あらゆるユーザーが情報へアクセスしやすい環境を提供しています。
内閣府のウェブアクセシビリティ方針の例
・JIS X 8341-3への準拠
内閣府は、ウェブアクセシビリティの国内基準である「JIS X 8341-3:2016」に準拠することを目指しています。この基準に従い、文字の読みやすさ、色のコントラスト、ナビゲーションのしやすさなど、利用者が使いやすい設計に取り組んでいます。
・ユーザビリティとアクセシビリティの確保
サイト全体で、視覚・聴覚・操作面のバリアを減らし、すべてのユーザーが直感的に利用できるようにデザインしています。画面リーダーへの対応や、音声案内を提供することで、視覚や聴覚に障がいのあるユーザーも利用しやすい工夫をしています。
・定期的な検証と改善
サイトのアクセシビリティを定期的に評価し、課題があれば改善を行っています。また、ユーザーからのフィードバックを受け、継続的に品質を向上させる取り組みも行っています。
・情報の分かりやすい提供
複雑な専門用語や文章を避け、できる限り分かりやすい言葉で情報を提供するよう努めています。また、文字サイズ変更機能や色の反転機能を設け、個々のユーザーのニーズに応じた表示方法が選択できるようにしています。
・すべての端末でのアクセス向上
スマートフォンやタブレットを含む、さまざまなデバイスで快適に閲覧できるレスポンシブデザインを採用しています。これにより、利用環境に左右されず、多様なアクセス手段に対応したサイト運営が実現しています。
ウェブアクセシビリティのガイドライン
各企業や官公庁がWebサイトやサービスのウェブアクセシビリティ向上に取り組む際、以下のような国内外の代表的なガイドラインが指針として活用されています。
W3Cのガイドライン「Web Content Accessibility Guidelines(WCAG 2.1)
ティム・バーナーズ=リーが創設した「W3C(World Wide Web Consortium)」が提供するガイドラインで、アクセシビリティ向上のための世界的基準です。
WCAGは「知覚可能」「操作可能」「理解可能」「堅牢」の4つの基本原則を柱にしています。
これにより、視覚や聴覚、運動や認知に制約のある方も含め、さまざまなユーザーのニーズに対応できるよう、原則と具体的なチェックリストを提供しています。
現在、WCAG 2.1や2.2もリリースされ、基準が進化しています。
参照元:https://www.w3.org/TR/WCAG21/
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のガイドライン
日本国内で広く認知されるJIS規格「JIS X 8341-3」に基づいたガイドラインです。
この規格は「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」として、端末やブラウザに関わらず、全ての利用者がウェブコンテンツを使いやすくすることを目的に定められています。
JIS X 8341-3はWCAGを基に策定され、日本でのアクセシビリティ対応の基本指針として活用されています。
参照元:https://waic.jp/
デジタル庁のガイドブック
デジタル庁が「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現するため、ウェブアクセシビリティの初心者向けに公開したガイドブックです。
特に行政官や事業者に向け、アクセシビリティの基本的な考え方や取り組みのポイントを分かりやすく解説しています。
このガイドブックはデジタル庁のWebサイトから無料でダウンロードでき、具体的な対応手順が初めての方にも理解しやすいように工夫されています。
ウェブアクセシビリティの現状と今後の展望
ウェブアクセシビリティとは、障がいの有無や年齢、利用環境に関係なく、誰もが等しくウェブサイトやアプリケーションを利用できる状態を指します。
日本では、ウェブアクセシビリティの義務化に向けた取り組みが進んでいますが、現状ではまだ具体的な法規制は成立していません。本記事では、日本と海外の状況、義務化のメリットと意義、推奨される基準、関連法規、そして今後の展望についてまとめます。
日本の状況
日本では、ウェブアクセシビリティに関する法規制はまだ整備されていませんが、「JIS X 8341-3」が広く認知されています。
この基準は、高齢者や障がい者を含むすべての利用者がウェブコンテンツを利用できることを目的としています。
また、公共機関や特定の事業者に対しては、アクセシビリティへの配慮が推奨されています。
海外の状況
海外では、ウェブアクセシビリティに対する取り組みが進んでいます。
例えば、アメリカではADA(Americans with Disabilities Act)に基づき、ウェブアクセシビリティが義務化されており、多くの州で公的機関や民間企業が対象となっています。
さらに、EUでは「Webアクセシビリティ指令」が施行されており、公共機関にウェブアクセシビリティが義務付けられています。2025年からは民間企業にも適用される予定です。
障害者差別解消法
2016年に施行された障害者差別解消法は、障がい者に対して合理的配慮を求めることを義務付けています。
この法律は、ウェブアクセシビリティに直接的な規定はありませんが、障がい者が情報にアクセスできることを求めるものとして解釈されています。
公的機関の取り組み
日本の公共機関では、ウェブアクセシビリティの確保に向けた取り組みが進められています。
多くの省庁や自治体が、自らのウェブサイトのアクセシビリティ向上に取り組み、改善を進めています。
民間企業への影響
間企業においても、明確な義務付けは現時点ではありませんが、ウェブアクセシビリティへの対応が進む傾向にあります。
これは、企業の社会的責任としての認識が高まり、新たな市場機会を見込んでの取り組みが増えているためです。
今後、ウェブアクセシビリティの重要性がさらに認識される中で、法規制が整備される可能性が高まっています。
国際的な流れや国内の動向を踏まえ、適切な対応を考えることが求められるでしょう。
ウェブアクセシビリティの向上は、全ての人が平等に情報にアクセスできる社会の実現に向けた重要なステップです。
ウェブアクセシビリティの4つのメリット
ウェブアクセシビリティは、すべてのユーザーがウェブサイトやアプリケーションにアクセスできるようにすることを目的としています。
アクセシビリティに対応することで、企業や組織はさまざまなメリットを享受できます。
ここでは、主な4つのメリットを紹介します。
ユーザーの満足度を向上できる
アクセシビリティの向上に取り組むことで、明確なナビゲーションや適切なコントラスト比、読みやすいフォントサイズが実現されます。
これにより、障がいを持たないユーザーにとっても利便性が高まり、快適に利用できる環境が整います。
結果として、ユーザー体験が向上し、顧客満足度が高まるのです。
ユーザー幅を広げられる
ウェブアクセシビリティに配慮することで、これまでアクセスが困難だった障がいを持つユーザーや高齢者が、ウェブサイトやサービスを利用できるようになります。
これにより、潜在的な顧客層が拡大します。
特に、日本では少子高齢化が進んでいるため、アクセシビリティへの取り組みは競争優位につながる可能性があります。
SEOに効果がある
ウェブサイトのアクセシビリティ向上は、検索エンジン最適化(SEO)にも寄与します。
アクセスしやすいウェブサイトは、構造が整っており、コンテンツが適切にマークアップされているため、検索エンジンはユーザーフレンドリーなサイトを高く評価します。
結果として、検索結果の上位に表示されることで、より多くのユーザーにサイトを訪問してもらえる機会が増加します。
ブランディングを向上できる
アクセシビリティに配慮した取り組みを社内外にアピールすることで、企業の社会的責任(CSR)を果たしていると認識され、ブランドイメージの向上につながります。
この結果、ステークホルダーからの信頼が向上し、企業としての価値を高めることができます。
ウェブアクセシビリティへの取り組みは、単に法令や規定に従うだけでなく、企業や組織にとって重要な競争力の源となります。
ユーザーの満足度向上、潜在的な顧客層の拡大、SEO効果、ブランドイメージの向上といった多くのメリットを享受するために、アクセシビリティに対する取り組みを強化することが求められています。
ウェブアクセシビリティ向上のためのチェックポイント
ウェブサイトのアクセシビリティは、すべてのユーザーが快適にインターネットを利用できるようにするために非常に重要です。
特に障がいを持つ方々や高齢者にとって、アクセシビリティの確保はその利用体験を大きく向上させる要因となります。
ここでは、ウェブアクセシビリティ向上のための具体的なチェックポイントを紹介します。
コンテンツの構造化
重要なのは、コンテンツが明確に構造化されていることです。
視覚障がい者は、スクリーンリーダーを使ってコンテンツを読み上げます。
このため、見出しタグ(H1、H2、H3など)を適切に使用し、情報の階層をはっきりと示すことが必要です。
リストやセクションの論理的な分割を行うことで、ユーザーは情報をスムーズに把握できます。
気を付けたいHTMLの一例
<section></section>
<nav></nav>
<article></article>
<table></table>
<h1>大見出し</h1>
<h2>中見出し</h2>
<h3>小見出し<h3>
<p>本文など</p>
<ul>
<li>順不同リスト</li>
<li>順不同リスト</li>
</ul>
<ol>
<li>順序付きリスト</li>
<li>順序付きリスト</li>
</ol>
色彩への配慮
テキストと背景のコントラスト比を高く設定することは、視覚障がい者や高齢者にとって重要です。
一般的には、コントラスト比が4.5:1以上であることが推奨されています。
また、色だけで情報を伝えないようにし、形やテキストを使用して補足することが必要です。
テキストのフォントサイズとスタイル
読みやすいフォントサイズやスタイルを選ぶことで、すべてのユーザーが快適に読めるようになります。
特に、専門用語や略語を使用する際は、その意味を解説することが大切です。
キーボード操作のサポート
ウェブサイトは、キーボードだけで完全に操作できるように設計する必要があります。
特に、マウスポインタが見えない視覚障がい者や、身体に障がいを持つ方々に配慮した設計が求められます。
フォーカスを明示するためのビジュアルヒントを提供することも重要です。
環境依存文字や特殊記号の使用回避
環境依存文字や特殊な記号は使用しない方が良いでしょう。
これらは音声読み上げソフトで正しく読み上げられなかったり、表示が崩れたりすることがあるため、シンプルな表現を心がけることが推奨されます。
特殊文字・環境依存文字の一例
文字分類 | 共通に使える文字 | 機種依存文字 Win | 機種依存文字 MAC |
---|---|---|---|
マーク | 〇○◇□△▽☆●◆ ■▲▼★◎◯♂♀〒 | ||
括 弧 | ()〔〕[]{}〈〉《》「」『』【】‘’“” | ||
省略文字 | №㏍℡㊤㊥㊦㊧㊨ ㈱㈲㈹㍾㍽㍼㍻ | ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨⑩ ⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑱⑲⑳ ⅠⅡⅢⅣⅤ≡∑∫∮√ ⊥∠∟⊿∵∩∪・ | |
単位 | ¥$¢£%‰℃Å | ㍉ ㎜ ㎝ ㎞ ㎎ ㎏ ㏄ ㍉㌔ ㌢ ㍍㌘ ㌧ ㌃ ㌶ ㍑ ㍗ ㌍ ㌦ ㌣ ㌫ ㍊ ㌻ |
画像には代替テキストを付ける
画像には必ず代替テキスト(alt属性)を設定しましょう。
これにより、視覚障がい者がスクリーンリーダーを使って画像の内容を理解できるようになります。
代替テキストは、画像の内容を具体的に説明するものであることが重要です。
画像の代替テキスト(alt属性)の例
<img
src="画像URL"
width="500"
height="300"
alt="一般色覚者は、すべての色を区別できるが、色弱者は赤や緑を中心に区別しにくい。"
>
リンクの認識を容易にする
リンクは、誰でも認識しやすいように工夫しましょう。
例えば、リンクに下線をつけたり、色だけに頼らず形を変えることで、視覚的にリンクであることを強調することができます。
リンクテキストも具体的にし、クリックすることで何が得られるかが分かるようにします。
映像コンテンツへの字幕や音声解説
映像やオーディオコンテンツには、字幕や音声解説を付けることが重要です。
これは主に聴覚障がい者への配慮ですが、すべてのユーザーにとっても便利です。
特に、静かな環境で視聴する場合や、音声が聞き取りにくい状況でも情報を得ることができます。
フォーム要素のラベル付け
オンラインフォームでは、各フィールドに明確なラベルを付けることが必要です。
これにより、ユーザーが入力内容を理解しやすくなります。
また、エラーメッセージは具体的でわかりやすく、問題が発生した際に解決策を提示することが求められます。
アニメーションや自動再生の配慮
最後に、アニメーションや自動再生のコンテンツに対する配慮も忘れないようにしましょう。
アニメーションは、ユーザーが自分のペースで閲覧できるように制御できることが理想です。
また、自動再生は避け、ユーザーに選択肢を提供することが大切です。
これらのチェックポイントを意識してウェブサイトを構築することで、より多くの人々にアクセスしやすい環境を提供できるようになります。
ウェブアクセシビリティの向上は、単に法律や規則を守るだけでなく、より良いユーザー体験を実現するための重要なステップです。
すべての人が快適に利用できるウェブ環境を目指して、今すぐ取り組んでみましょう。
ウェブアクセシビリティ チェックツール
ウェブアクセシビリティをチェックするためのツールは、サイトの利用可能性を向上させるために非常に役立ちます。以下に、無料及び有用の代表的なツールをいくつか紹介します。
WAVE (Web Accessibility Evaluation Tool) (無料)
ページを入力するだけで、アクセシビリティの問題を視覚的に表示します。
エラーや警告のリストも提供されます。
※日本語非対応
axe Accessibility Checker (無料)
ChromeやFirefoxのブラウザ拡張として利用可能で、ページのDOMを分析し、アクセシビリティの問題を指摘します。
※日本語非対応
参照:Chromeウェブストア Fierfox Add-ONS 運営
Lighthouse (無料)
パフォーマンス、アクセシビリティ、SEOなどを評価するためのツールです。
開発者向けに詳細なレポートを生成します。
※日本語対応
Accessibility Insights (無料)
マイクロソフトが提供するツールで、ウェブとアプリのアクセシビリティを評価し、問題の修正方法を提案します。
※日本語非対応
参照:https://accessibilityinsights.io/
Siteimprove(有料)
アクセシビリティだけでなく、コンテンツ品質、SEO、パフォーマンスなどの管理を統合的に行えるプラットフォームです。
※日本語非対応
参照:https://www.siteimprove.com/
Accessibility Checker by Tenon(有料)
コードの自動チェック、レポート作成、開発者向けの統合が可能で、柔軟なAPIも提供されています。
※日本語非対応
参照:https://www.levelaccess.com/
Deque WorldSpace Attest(有料)
リアルタイムのアクセシビリティ監視と報告機能を持つ企業向けツールです。
これらのツールを活用することで、ウェブサイトのアクセシビリティを向上させ、ユーザーが快適に利用できる環境を整えることができます。
自動チェックによって作業の効率化が図れるため、ぜひ取り入れてみてください。
まとめ
ウェブアクセシビリティの向上は、すべてのユーザーに対する平等な情報アクセスを実現するために不可欠です。ユーザーの満足度を向上させ、潜在的な顧客層を広げることで、ビジネスにとっても大きな利益をもたらします。また、SEOの向上やブランディングの強化にもつながります。
具体的な取り組みとしては、コンテンツの構造化、色彩への配慮、適切なフォントサイズとスタイルの使用、キーボード操作のサポート、画像の代替テキスト設定、リンクの明確化、映像コンテンツへの字幕付与などが挙げられます。
これらのチェックポイントを実践することで、ウェブサイトはより多くのユーザーにとって利用しやすくなり、企業や団体としての社会的責任を果たすことにもつながります。
今後も、ウェブアクセシビリティの重要性を認識し、継続的に改善を図ることが求められています。
全ての人が快適に利用できるウェブを目指して、一歩ずつ進んでいきましょう。